2012年6月26日火曜日

生と死の医療現場で考えさせられたこと(24)

-医療現場で福音を伝える(4)

-医療従事者への働きかけ

私が病院でパストラルケアに携わるようになった当初、医師から何をしている人かな?という冷たい視線を向けられていたように思います。病院は科学の世界です。科学的価値にもとづく職業人からは、我々は異人なのかもしれません。

看護師には入職するとき、オリエンテーションでパストラルケアというimage部署があることは知らされていました。しかし、実際私たちが患者とどういう話をしているのか、どういう関わり方をしているのかを知らされていなかったのです。医師とも看護師ともコミュニケーションのないようなパストラルケアでした。看護師との関わりは、院内で亡くなられた方のためにお祈りを家族から依頼されたときとか、解剖があるときのお祈りとかに連絡しあったりする程度だったのです。

各病棟にシスターが配置できた時代は、シスターが福音的な看護について看護師にきめ細かく教えることができました。けれども、シスターの高齢化でそれもできなくなり、具体的に福音的な看護行為とかケアについて手をとり足取り教えることができる人がいなくなっていました。

病院全体の職員とは、毎月の妊婦さんの腹帯の祝別、12月のクリスマス、5月の聖母祭、11月の追悼式(病院で一年間に亡くなった人の慰霊祭)など、病院内のキリスト教的な行事において多少ともキリスト教的な雰囲気と価値観を職員に提示する程度のものでした。このような行事は、多少ともキリスト教的な雰囲気を病院に漂わすことには貢献していたと思います。

少しずつ病院内の課題が見えてくるにつれて、まず病院内のキリスト教的な行事をもっとよりよいものにするための見直しをしました。それから、福音的価値観の根幹を職員に理解してもらうために、全職員対象に「一日理念研修会」を年二回するようにしました。さらに、毎月聖堂で30分の「祈りの集い」を企画しました。テーマに沿って福音的な観点からお話し、合わせて一緒にお祈りをするというものです。

「一日理念研修会」は、シスターのところの「黙想の家」が廃止になりできなくなりましたが、「祈りの集い」は今も続いています。最初はわずかの出席者でしたが、現在は毎回平均50人程度、多いときは100人も出席します。

パストラルケアについては、ホスピス・緩和ケアが日本の医療界で受け入れられる時代になって大変助けられた思いです。日常的には、スピリチュアルケアという言葉が一般化しています。ただ、スピリチュアルケアという言葉は知られるようになったけれども、人間のスピリチュアリティについての理解はまだまだです。

imageわたし自身は、患者との関わりの話は病棟スタッフに知らせた方がよいと思う事柄は、カルテに書き込みます。医師はそれを見る時間はないようですが、看護師は見てくれているようです。病棟のカンファレンスにも出席して病棟とのコミュニケーションもとるようにしています。毎年2月の院内職員の研究発表会にも発表することがあります。今年は、「‘死についての言葉’が出るがん患者のケアに関する現象学的考察」というテーマでフッサールとハイデガーの現象学から発表しました。わずか15分の持ち時間で不完全な発表だと思いましたが、廊下で一人の医師から呼び止められ、「よく理解できました」とお礼を言われました。

一般的に医師は科学的な根拠付けの世界に生きる人です。いきなり宗教的、神学的根拠付けを語っても受け入れてもらえないと思います。科学は因果的な筋みちと、そのエビデンス(根拠ある医療)を大事にします。今回の体験で哲学的な筋みちからの考察と、そのエビデンスは受け入れてもらえそうに思いました。

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