2013年4月2日火曜日

生と死の医療現場で考えさせられたこと 27

医療現場と哲学

哲学というと、書斎で哲学の文献と向き合い、実践とはほど遠い無意味な哲学的議論や問題を探求していくものというイメージがありました。ところが、医療現場での種々の課題に応えるために哲学の役割が見直されるようになっています。

まず、患者から表出されるスピリチュルペインに対しての対応からです。哲学はものごとを根本から考えようとします。実際、ターミナルの現場では、患者自身から哲学的な問いかけ、自分の苦痛や存在に対する根拠を求める語りに出会います。たとえば、「なぜ、こんな病気になってしまったのか」、「この苦しみに意味があるのか」、「今までの人生に意味があったのか」というような問いかけです。

ケアの思想と対人援助―終末期医療と福祉の現場から信仰をもっている人は、信仰から答を得ようとします。しかし、現代の日本で宗教をもたない人が圧倒的に多い中、患者のスピリチュアルケアの領域で哲学的な根拠によってスピリチュアルペインに対応しようとする役割が大きくなりつつあります。村田久行氏が開発したスピリチュアルアセスメントシートは、日本のターミナルケアの現場で最もよく用いられているもので、哲学(とくに現象学)に根拠を置いています。村田理論として知られています。

次に医療現場の分析や問題の整理のためです。昔に比べ医療の質が高くなればなるほど、医療現場は複雑になってきています。一人の病人が立ち上がっていくために多職種の医療従事者の手を経ます。そのための協働や連携があります。また、安心、安全な医療を求める社会の声が大きく、それだけ医療現場に重圧がかかるような状況があります。

哲学は、概念を使って問題を分析しやすくします。医療を根本から考えるとともに、哲学的に問題を整理しながら医療現場の要請に応えようとしています。以前からは生命倫理や医療倫理など倫理学の個別分野で医療に哲学が入ってきていた。それが今日では臨床の場そのものに臨床哲学が入ってきています。医療の現場は、実証主義的です。具体的に実践の現場で実証されないようなものは尊重されません。臨床哲学は、そのような臨床の現場のニードに応えらようとするものです。

清水哲郎や鷲田清一らがいます。『医療現場に臨む哲学』の著者、清医療現場に臨む哲学水哲郎によれば、臨床哲学の役割は、言葉をもって実践の現場を記述し、分析し、整理する書記のようなものであると言います。さらに、看護論やケア論の場では現象学的看護論やケア論が研究され、まだ限定されていますが、多くの医療従事者から注目を受けています。

たとえば、交通事故などで植物状態にあるような患者の看護の現場でしっかりコミュニケーションをとっている看護師がいます。そのような看護師の働きをメルロ・ポンティの身体論的現象学を用いて分析し、現場のケア論に役立てようとする研究がなされています。この研究は『語りかける身体』というタイトルで、すでに出版されています。私も微力ながら、語りに見る自己超越について、現象学のケア論から研究を試みています。語りかける身体―看護ケアの現象学

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